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高森明勅
2020.7.15 06:00政治

「感染者数」という幻想

メディアは連日、新型コロナウイルスの感染者数を大々的に報道。
人々はそれに一喜一憂しているように見える。
しかし、正確な意味で感染者数の変化を掴むのは、
常識的に考えて不可能(!)ではないか。
そもそも、国内の感染者数の“正確な”数値を把握する為には、
どうすれば良いか。
国内にいる(国民も外国人も含めて)全員に対して、
“一斉に”PCR検査を実施する他ないだろう
(検査の精度の問題、偽陽性・偽陰性の問題は、一先ず大目に見て)。もし検査日が“ズレ”ると、別の日に検査した分は、
既に変化(増減)があった結果かどうか、判別できなくなる。
しかし、「国内一斉検査」なんてことは勿論、不可能だ。

つまり、変化を測る「スタート時点」での感染者数を確定すること自体が、
無理。
更に、感染者数の“変化”を知る為には、その後も継続して、同じく国内の全員を対象とした一斉検査を続ける以外に、方法は無いだろう。当たり前だが、そんなことは絶対に出来っこない。他に、一部の人々を対象とした抗体検査の結果から、
類推によって全体の感染者数を推定する、という方法も
ありそうだが、感染しても抗体が出来ない場合がしばしば
あるのなら、これも当てにならない。

要するに、正確な感染者数と、その変化を知ることは元々、
不可能なのだ。

では、メディアが報じている数字は何か。
任意の、ごく限られた人々を対象にPCR検査を実施して、
“その中で”たまたま陽性反応が出た人の数に過ぎない。
その意味では、前々から感染していた(ほとんどは無症状の)
人々の“氷山の一角”ということになろう
(言うまでもなく、検査した日に急に感染したという人は
余りいないはずだ)。

従って、その時の検査対象の人数の多少や、対象とした人々の
感染可能性の高低などの「前提条件」によって、
結果は大きく変わってしまう。

実態として、全体の感染者数が減少を続けている時でも、
検査対象を感染可能性の高い人々にシフトさせたり、
その数を多くすれば、増加しているように見えてしまう。

学校の持ち物検査を思い出してみれば分かりやすいかも知れない。
もし、新学期の初日に、手抜きで3人だけ検査して、3人とも
忘れ物がなく、2日目に全校生徒を対象に検査を実施して、
10人の忘れ物をした生徒がいたとしても、それで忘れ物をする
生徒が“激増”したことにはならない。

検査対象者の数と対象者の属性など、前提条件についての
情報を伏せて(!)、結果の感染者数のみ“単独”で報道しても、
実態とは無縁な間違った印象を与えるだけだ。
無意味というよりも、率直に言って有害ではないか
(無駄に恐怖心を煽り、社会と経済に甚大なダメージを与える)。

それよりも、感染状況「全体」の実態とその深刻さの程度を、
ストレートに示すデータが“別に”ある。
それは死者と重症者の数。これらは、何よりも「全体の実数」を
正確に(!)知ることが出来るのが、“強み”だ。
それらの1日ごとの数値が、どの程度、増えているのか、
又は減っているのか。

その増減のペースはどうなっているのか。
メディアが、情報として不完全で欠陥がある“感染者数”
(この表現自体、既にミスリーディング)ではなく、
確実性が遥かに高い死者数と重症者数のデータさえ、
キチンと提示してくれさえすれば、多くの人々が「事態の真相」を
正しく掴むことが出来るのだ。

このところ、感染者数の多さ(?)ばかりが取り沙汰されている
東京都の場合、死者の数は6月24日に2名が亡くなられて以来、
現在までゼロ(!)。
重症者も7月13日時点で6名(!)だ。

都民全体の数の多さと比較して、この数字をどう評価すべきかは、
改めて言うまでもあるまい。
客観的に言って、目の前の「現実」を正しく理解する為には、
これらのデータの方が格段に重要なはずだ。
多くのメディアは何故それを正確に伝えようとしないのか
(東京都当局もしかり)。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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